「マーケット」
「マーケット」 2018年7月号 大野 尚
ビジネスの成功に必要なのはお客です。
お客(買ってくれる人)がいなければビジネス、敢えて言うなら商売は
成り立ちません。
そのお客を見つけるために皆苦労します。
良いプロダクト(商品・サービス・技術等)なのに売れないと嘆きがちです。
そもそもお客とは何だろう?
買ってくれる人。一人じゃ困ります。
お客が集まる場所は・・・
人の集まる「市場」 そう、英語で「マーケット」です。
ラテン語で「MARCATUS」=「商う」が語源だと言われています。
市場を表す言葉は、
伊語で「メルカート」
仏語で「マルシェ」
西語で「メルカド」
独語で「マルクト」
といずれもラテン語が由来です。
また、アラビア語圏では「スーク」で、中東やインドでは「バザール」と言います。
因みに沖縄では「マチグァー」と言います。
これは間の路と書いて「間路」と言うところから来ているのではないかと
勝手に僕は想像しています。
考えてみると日本の商店街は殆どが道の両並びに構える商店の集合体です。
話は変わりますが、15年ほど前にウズベキスタンを旅行しました。
「青の都」と呼ばれる千夜一夜物語の舞台となったサマルカンドは
紀元前10世紀頃から砂漠のオアシス都市として栄えたところです。
その世界遺産に登録された町の見どころはティムール王国を一代で
築き上げた王ティムールが創り上げた建築物(モスク・霊廟)も
美しく見応え十分ですが、それよりも私は無類の市場好きです。
旅に出れば必ずその場所の市場に訪れています。
当然の様にサマルカンドでも街の中心にある
シヤブ・バザールにも立ち寄りました。
円形のドーム型をした市場の中には様々なモノが売っています。
多くの人々が集まってとても賑やかです。
ふと、意識が消え、思わず夢心地で想像の世界に入り込んでしまいました・・・
日中は太陽の強烈な陽炎に夜は月明かりと香しき香木を焚く煙に揺らめく
妖しいアラビアンナイトの世界に遥々と山を越え、砂漠を超え、大河を渡り
様々な国から訪れた人々。
東方の中国から南方のインドから西方のヨーロッパから、また、厳しい
山間部・広大な草原を行き交う遊牧民族も隊商(キャラバン)の一団も
東西南北からオアシスの市に集まってくる。
待っているのはオアシス近辺に定住する農耕民族です。
彼らは米や野菜・小麦粉に自分たちが紡いで編んだ敷物や衣服・香料や
香辛料・彩色豊かなドライフルーツ・肉に野菜に寒暖差のお陰でジュー
シーな甘みを湛えたスイカにメロン、土窯で焼き上げたサマルカンドナン
と言われるパン。
・・・最初は水辺の土地に行き交う人々が水を求め休息の場となり、食を
求めれば食を提供するものが現れ、病で倒れれば治療を施すものが現れ、
金が足りなければ貸すものが現れ、必要に応じて提供するものが次から次へ
と現れていったのです。
物々交換から始まった小さな取引の「場」が
多くの人々が集う事で市場となったのです。
小さな個人対個人のモノの交換という取引が様々なモノと多くの人々と
行われることにより、「市」の拡大が続き、個人から専業として商店と
なり、儲かるものには競合が生まれ、もっと良い商品を、もっと良い価格で、
もっと喜んで貰えるサービスを、手を変え品を変え、より目立つように、
より便利な場所へと、事業意欲は高まっていったのでしょう。
・・・それから数千年後、
現在のビジネスは大きな変革を遂げたのでしょうか?
先日、上場したシェアリングエコノミーアプリを提供する「メルカリ」、
時価総額6000億円を超える大商いとなりましたが、このメルカリは
新たな市場をネット上に創り上げたのです。
まさに、個人と個人が所有するものを売り買いする仲介アプリです。
聞くところによると社名の「メルカリ」はラテン語由来の「商いをする」に由来して
おり、「マーケット」も同じ起源です。
オアシスの土地に生まれた小さなバザールがネット上に生まれ変わったのです。
もう一度、原点に戻って買う客がいなくなったにではなく客が購入したくなるプロ
ダクトの創造を真剣に考えてみませんか?